スポーツのランキングについて
2010/07/01
東海大学理学部情報数理学科:土屋 守正
W杯南アフリカ大会で、FIFA ランク45位の日本がFIFAランク19位のカルーンや36位のデンマークを破りました。これは順位的にみて金星と言えるのでしょうか。金星とはもともと大相撲で平幕の力士が横綱を破ったときの言葉であり、ランキングの低いもの(平幕の力士)がランキングのトップ(横綱)を破ったことを意味しています。横綱から前頭筆頭までに横綱1名、大関4名、関脇2名、小結2名の合計9名がいるので、ランク的には1位と10位と9離れています。ランキングが10以上離れた相手との勝利はかなり価値があることと考えてよさそうと思えます。この点からするとカメルーン戦も、デンマーク戦もトップのチームを破ったわけではないので金星とは言えないと思えます。しかしながらランクの差をみるとかなり価値のある勝利と言えそうです。このように自分より強い相手に勝つと、感覚的にはFIFAランクが上昇するような気がします。いわゆる価値ある勝利はランキングに反映されているのか調べてみたくなりました。
現在のFIFAランクは、次のように過去4年間の各国代表の試合によるポイントより算出した値によって決定されています。(以下の計算式のデータはFIFA公式ホームページより)
直近4年間の国際試合のポイントより計算 4年を1年ごと4区画に分け
- 1年間に行った
各国代表の試合のポイントの合計 / 試合数
で1年間のポイントを算出(試合数が5以下のときは試合数を5とする) - 1年毎に獲得したポイントを直近1年から順に
100%,50%,30%,20% の割合
で合計する.
ここで試合のポイントは次のように計算される。
(M:試合の勝ち点)×(I:試合の重要性)×(T:対戦国間の強さ)×(C:大陸連盟間の強さ)×100
勝ち点(M) | 試合の重要性(I) | ||
勝利 | 3点 | 親善試合(小さな選手権を含む) | 1.0 |
PK戦による勝利 | 2点 | FIFA Wカップ予選, 大陸選手権の予選 | 2.5 |
PK戦による負け | 1点 | 大陸選手権の本大会, FIFAコンフェデレーションズカップ | 3.0 |
引き分け | 1点 | FIFA Wカップ本大会 | |
負け | 0点 |
対戦国間の強さ(T) | 大陸連盟間の強さ(C) | ||
1位 | 2.00 | UEFA (ヨーロッパ) | 1.0 |
2位~149位 | (200-(相手のFIFAランキング))/100 | CONMEBOL (南米) | 0.98 |
150位以下 | 0.5 | CONCACAF(北中米) | 0.85 |
AFC(アジア) | 0.85 | ||
CAF(アフリカ) | 0.85 | ||
OFC(オセアニア) | 0.85 |
を元に
大陸連盟間の強さの関係を表す係数=(対戦2カ国の定数の合計)/2
この計算式によるとカメルーン(FIFAランク19 位)戦及びデンマーク(FIFAランク36位)戦の勝利のポイントは
カメルーン戦:3.0×4.0×1.81×0.85×100 =1846.2
デンマーク戦:3.0×4.0×1.64×0.925×100 =1820.4
となります。カメルーン戦もデンマーク戦の勝利も獲得ポイントではあまり変わりはないように思えます。これは、大陸連盟間の強さを表す係数によるものです。ちなみに、負けたオランダ(FIFAランク4位)戦のポイントは0で、PK戦で負けたパラグアイ(FIFAランク31位)戦のポイントは
1.0×4.0×1.69×0.915×100 = 618.54
となります。ということで合計4285.14ポイントがこのW杯で得たポイントになると思います。(ちなみに予選リーグで姿を消したフランスのW杯での獲得ポイントは728.64です。) 対戦国の強さのファクターがあるので、上位のものに対する勝利は獲得ポイントを大きくしています。いわゆる価値ある勝利も考慮されているといえましょう。ちなみにこの計算式における試合のポイントの最高値は理論的には2400となります。それは現時点でいえば、UEFAに所属するチームがFIFAランク1位で、そのチームをUEFAに所属するチームがW杯の本選で破ったときに生じます。
要求されている試合数の下限が5であり、FIFAランクが付与されている国が207カ国余りあるので、試合をしない国の組み合わせがかなりあることが分かります。総当たりのリーグ戦ができない状況でのランキングの作成を、試合のポイントの平均値で計算しているのがFIFAのランキングといえましょう。
同様にすべての組み合わせの試合ができない状況下でのランキングの一つにテニスのランキングがあります。こちらは試合での獲得ポイントの積算で行っています。また、トーナメントでどこまで勝ち上がったかによって獲得ポイントが変わります。したがって、ランクを上げるためには、多くの試合に出て勝つことが必要になります。選手にトーナメントへの出場を促すためには効果のあるランキングといえると思います。
対戦がない者のいる集まりにおけるランキングの方法には、サッカーのような平均型とテニスのような積算型があるようです。どちらも長所、短所があるようで、一概にどちらが良いとは言えないと思います。
ランキングは、それぞれの競技の特性に適したものが選ばれているようです。競技の特性がランキングの定義式からもうかがえます。テニスのランキングを調べているときにダブルスに関する個人ランキングがあること気付きました。ダブルスの結果からどのように個人のランキングを出しているのか非常に興味がひかれました。今度はダブルスの結果から個人のランキングの平均型の求め方を考えてみたいと思っています。