コラム | 東海大学理学部情報数理学科 - Part 3  

理魂工才

2007/11/01

東海大学 理学部 情報数理学科 古山恒夫

私は工学部出身でありながら理学部に籍を置いている。開発工学部から理学部に異動したと聞いて古い友人がからかい半分に「大丈夫ですか?」と言ったことは今も忘れない。ただ、大昔、ほんの一瞬であるが数学を志そうと思ったことがあったり、大学院に進学しても研究室に顔を出さずに数学の本を読みふけっていたりしたことがあったので、理学的な魂は多少残っている(つもりである)し、研究でも大学の教養レベルではあるが数学を応用するテーマに取り組んでいるので、まあ許してもらえるのではないかと思っている。

そのような経緯から、理学と工学の違いを意識することが少なくない。学生には折に触れ理学と工学の違いは何か、と問いかける。これは情報数理学科の学生でも卒業すると大半は「工学」の世界に身を投ずるため、その違いを早くから意識させようと思っているからである。理学の目的は真理の探究であり、工学の目的は世の中の役にたつものを作るための技術を開発することであるというのが私の答えであるが、そのときに引き合いに出すのが2002年度に日本人で同時にノーベルを受賞した小柴さん(ノーベル物理学賞)と田中さん(ノーベル化学賞)である。 小柴さんの業績は理学的業績、田中さんの業績は工学的業績と考えてよいだろう。よく知られているように、小柴さんは岐阜の山奥の地下に大規模な装置を作って超新星からのニュートリノを検出したことが受賞の対象となったが、小柴さん自身が述べておられるようにこれは世の中の役には立たない。真理の探求の点で功績があったことが認められたわけである。 一方、田中さんの受賞は、「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」によるもので、方法そのものは有用であるが、原理を完全に解明するまでには至っていないらしい(田中さん自身が書いておられたのを見た記憶がある)。つまり、真理は必ずしも明確でないが役に立つ方法である、というわけである。

10年ほど前に友人のベンチャー企業に顔を出して、複数枚の2次元の写真から3次元物体の復元を行う仕事の手伝いをしたことがある。理論式は難解ながら大変美しく、これを眺めると誰でもすぐに3次元物体を復元できるように思えた。しかし、現実は厳しく、理論通りのプログラムを作っても(私が作ったわけではないが)それだけでは思うような3次元物体は復元できなかった(現在では研究が進んで当時よりは容易に3次元復元ができるようになっているらしい)。復元したつもりの物体が「必ず」ひしゃげてしまうのである。原因は画像にのるわずかな誤差の影響にあり、その影響を排除するためにはさまざまな工学的工夫が必要であった。 もともと3次元復元の理論、これは実用目的が明確であるという点で「工学的理論」とでも言うべきものであるかもしれないが、これを理解するためには、射影幾何学や線形代数の数学の知識が不可欠である。それ以外に誤差の影響を少なくするために統計学の知識も重要である。しかし、3次元復元の理論や統計学を知識として知っているだけではだめで、それをベースに多くの試行錯誤に基づく工学的工夫を加えていく必要があったのである。 もっと身近には、私の主な研究テーマのひとつである、ソフトウェア信頼度成長モデル(SRGM)でも同様のことが起こる。これはソフトウェア開発のテスト工程で検出した欠陥数の累積値の傾向から、そのソフトウェアに含まれている総欠陥数を推定しようとするモデルであるが、理論式に従った曲線の美しさと現実の累積欠陥データとの乖離が大きくなることは少なくなく、人によっては、SRGMは役に立たないと言わしめるもととなっている。まだまだ、理論的洞察と試行錯誤を続ける余地がある。 もうひとつの研究テーマである、ソフトウェア開発プロジェクトから得られたデータの分析も似たようなものである。物理現象から得られるデータでも多くの雑音・外乱が重畳しているが、人間の手による「ソフトウェア開発」における雑音・外乱は、私のみたところ物理現象から得られるデータの比ではない。したがってデータの信頼度は高くない。おまけに、得られたデータは欠損値が多いという基本的な問題を抱えている。

私は「カオス状態」のわけのわからない世界から法則やモデルを導き出そうと考えることが好きなので、このようなデータが大好きである。囲碁や将棋も中盤の難所が一番好きであった(最近は実戦をしなくなった)。 とはいえ、このようなデータをもとに「法則」を発見し、「モデル」を構築することは難しい。だからといって役に立てばよいという「悪い意味」での「工学的」考え方から得られた結果は、多くの場合普遍性を欠く。「理学的」な考え方、すなわち「真理の探究」という意識のもとで「数学的な裏づけ」を持ったアプローチで問題解決にとりかかる必要がある。ただし、実際の問題解決にあたっては、数学的に厳しい仮定に拘り過ぎると、逆に問題解決のために使えるツールとなりえなくなる。その意味で「理魂工才」が重要であると考える。

長者が村にやって来た-でも引っ越した。

2007/06/01

東海大学 理学部 情報数理学科 和泉澤正隆

~~読売新聞東京夕刊(2002. 05. 16 付け)の記事より~~
中央値の有用性について

 始めの表題は、国税庁が二千二年五月十六日発表した2001年度高額納税者番付に関連して、人口3千数百人で個人町(村)民総税額8千万円規模の地域に、一人で納税額が1億円を超える高額納税者が転入、転出したことで起こった「沖縄の離島、税収乱高下」の事態の変化についての記事に付けられたのもので、個人平均税額約2万円が、高額納税者転入により3倍ほど上がり、次年度は高額納税者転出により元に戻ると言う内容です。
(記事全文は末尾に引用しておきます。)

このような、相加平均あるいは算術平均が、実態からかけ離れてしまい、データの代表値の役割を果たさないことは、経済現象では多く見かけられます。
年間所得や貯蓄額などに関しても数値の表れ方の偏(かたよ)りが、”足し算”を使用する相加平均では捉えられないものが有ります。銀行利子は複利法という掛け算を基本とする等比数列ですから、他の”平均”(でこぼこをならし均質化を)する方法が考えられます。

また、世界の国の国土面積も、非常なアンバランスがあります。少数のデータ(極端な値のデータのことを「はずれ値」や「異常値」と呼びます)のために、相加平均の値が引っ張られることになります。こうした場合、データを大きさの順番に並べ、全体の中央に来る値、「中央値・中位数」を全体の代表値とします。

ここでは、アジア,北アメリカ,南アメリカ,ヨーロッパ,アフリカ及びオセアニア地域について、192カ国と「その他の地域」の人口・面積・人口密度についてのデータをもとに述べます。

「世界の統計 2007」第2章 人 口の2-4 人口・面積〔統計表〕  エクセル形式[200KB]
[出典] 総務省統計局発行,総務省統計研修所編集 「世界の統計 2007」
http://www.stat.go.jp/data/sekai/02.htm
http://www.stat.go.jp/data/sekai/zuhyou/0204.xls

   192カ国の国土総面積(平方km単位)=133,541,383  
       相加平均=695,528.0365  
       中央値 =119,511 
      (値を順番に並べた時 中央に位置する96番目と97番目の国の面積の平均)

です。そして、国土面積に関する度数分布表、ヒストグラムならびに『広い国』と『狭い国』の上位10カ国は以下に示すとおりです。

面積による度数分布表

面積(平方km)の範囲国
1千未満 24
1千~1万まで 8
1万~10万まで 53
10万~50万まで 56
50万~100万まで 21
100万~500万まで 23
500万~1000万まで 5
1000万以上 1
広い  国 名 面 積 狭い  国 名 面積
 1 ロシア 17,098,242  1 バチカン 0
 2 カナダ 9,970,610  2 モナコ 1
 3 アメリカ合衆国 9,629,091  3 ナウル 21
 4 中国 9,596,961  4 ツバル 26
 5 ブラジル 8,514,877  5 サンマリノ 61
 6 オーストラリア 7,741,220  6 リヒテンシュタイン 160
 7 インド 3,287,263  7 マーシャル諸島 181
 8 アルゼンチン 2,780,400  8 セントクリストファー・ネービス 261
 9 カザフスタン 2,724,900  9 モルディブ 298
10 スーダン 2,505,813 10 マルタ 3

ここでは、あえて、度数分布表での階級幅を変えています。国土面積が1平方キロに満たないバチカンや一千平方キロ以下の国数が24ある反面、ロシアは1カ国で全体の12%以上を占めているからです。

では、『広い国』と『狭い国』の上位5カ国の値を除くと
  182カ国の国土総面積(平方km単位)=78,731,493  
       相加平均=432,591  
       中央値 =119,511    

さらに、『広い国』と『狭い国』の上位10カ国の値を除くと
  172カ国の国土総面積(平方km単位)=59,690,681  
       相加平均=347,039  
       中央値 =119,511      

『広い国』と『狭い国』から除外する国数を同じにしているので、中央値は変化しませんが、(相加)平均の値はかなり変動しています。何を持って代表値とするかは、それぞれ意見のあることとは思いますが、その選択は、やはり、重要なものと考えます。

蛇足ですが、『高額納税者の公示(長者番付)について』
〈公示制度〉
シャウプ勧告を受けて導入された。所得税では、申告納税額が1000万円以上の人の氏名や住所、申告所得税額を、法人税では申告所得額が4000万円以上の法人名や申告所得額などを管轄する税務署で一定期間掲示した。相続税、贈与税なども公示対象だった。(読売新聞 中部朝刊 2006. 04. 03)
☆長者番付廃止を提言/政府税調(読売新聞 東京朝刊 2005. 11. 26)
答申は、税務署ごとに高額納税者を公示する制度(長者番付)が、犯罪や嫌がらせを招く原因になっていると指摘し、「廃止すべきだ」と提言した。個人情報保護法が4月に全面施行され、個人情報について慎重な取り扱いが求められていることも背景にある。・

☆長者番付廃止に賛否(読売新聞 東京朝刊 2005. 12. 17)
1950年に始まり、半世紀以上にわたり、世相を映してきた「長者番付」が姿を消す見通しとなった。15日にまとまった来年度の与党税制改正大綱に、高額納税者の公示制度の廃止が盛り込まれたためだが、番付“常連”の人の間でも賛否は分かれている。
長者番付は毎年5月、・・・税額を各税務署で掲示してきた。高額所得者の納税状況を第三者が監視するのが当初の目的だったが、公示対象者が犯罪に巻き込まれるなどしたため、廃止を求める声が強まっていた。
以下の公示結果いずれも、『読売新聞 東京朝刊 [NEWS抄録]より』

1990年分の5億円以上の大口納税者は142人でピーク。(バブル期)

<<95年5月16日(九四年分)>>(1995. 05. 21 掲載)
株の新規公開に伴う株譲渡所得で十六人もランク入りし大幅増。
一方、土地長者は三十六人とバブル期に比べて半減した。

<<96年5月16日(九五年分)>>(1996. 05. 19 掲載)
全国一位が九年ぶりに二十億円を下回るなど、長者が小型化

<<97年5月16日(九六年分)>>(1997. 05. 18 掲載)
五億円以上の納税者は二十四人で、この十年間では最も少なく、土地や株を売って番付入りした人以外の高額納税者がバブル以降初めて四割に達し、「バブル長者」が減少

<< 98年5月18日(97年分)>>(1998. 05. 24 掲載)
5億円以上の大口納税者は21人で、ピークだった90年分の7分の1に減少、高額納税者の小粒化が定着した

<<02年5月16日(2001年分)>>(2002. 05. 19 掲載)
株売却による長者は27人で、昨年に比べほぼ半減した

<<03年5月16日(2002年分)>>(2003. 05. 19 掲載)
5億円以上は15人と、前年分の31人から半減し減少傾向が進んでいる。長引く不況の影響で、土地や株の資産譲渡による典型的な「バブル長者」が次々と姿を消し、高額納税者の小型化が顕著になっている。

<<04年5月17日>>(2004. 05. 24 掲載)
納税額が10億円を超えたのは前年の半数の2人だけで、トップの納税額は過去20年間で2番目に低い金額だった。公示対象者は約7万4000人で、3年連続で減少

<<05年5月16日(2004年分)>>(2005. 05. 23 掲載)
公示対象者は7万5640人で前年比2・3%増と4年ぶりに増加した。サラリーマンとして初めて全国1位になった投資顧問会社の運用部長(46)の所得税額は約37億円で、約100億円の報酬を受け取った計算になる。個人情報保護の観点から公示制度の見直しを求める声が強く、来年から廃止される可能性もある。

読売新聞東京夕刊 夕一面 2002. 05. 16 

 長者が村にやって来た でも引っ越した 沖縄の離島、税収乱高下

 『国税庁が十六日発表した高額納税者番付でトップとなったユニマットグループ代表。リゾート開発を手がけた沖縄県の離島に一昨年から住民票を移し、東京と往復する生活を送るが、国内有数の高額納税者の転入は、離島の住民税収入を一変させた。二年間に二つの離島を移動したため、収入の増減に地元では悲喜こもごも。全国トップの今回は納税額も数十億円と巨額のため、沖縄県内で“納税VIP”の動向が注目を集めている。

 オフィスコーヒーサービスを手がけるユニマットグループが沖縄・宮古島の上野村にゴルフ場をオープンさせたのが二〇〇〇年二月。村側の要望もあり、ユニマットグループ代表は同年十二月に神奈川県から同村に転入し、村民の一人となった。ユニマットグループ代表は二〇〇〇年分の確定申告で所得税額が約九億円となり、全国十三位に。人口約三千二百人の同村では、二〇〇一年度の個人村民税の総額が約二億四千六百万円となり、前年度比で三倍以上に増えた。このうちユニマットグループ代表の納税額は一億数千万円にのぼり、一人で半分近くを占めた。

 ところが、ユニマットグループはそのころ、宮古島から約二百キロ離れた同県竹富町の小浜島でもリゾート開発を進めていた。小浜島は、人気を集めたNHKの連続テレビドラマ「ちゅらさん」で、脚光を浴びた場所。この島に昨年十一月、ホテルやゴルフ場などのリゾートが完成。ユニマットグループ代表も同月、上野村から竹富町に住民票を移した。人口約三千六百人の同町で、個人町民税の課税総額は昨年度で約八千万円。今年度は、自社株を外資系企業に譲渡し、所得税額六十八億円で全国トップになったユニマットグループ代表の転入により、数十億円の増額が見込まれる異例の事態となった。

 同町職員の一人は「財源が驚異的に増える。町ごと宝くじにあたったようなものだ」とほくほく顔だ。使い道については、「町民のためになるように、みんなで考えたい」。これに対し、落胆を隠せないのが上野村。今年三月の定例村議会では、村民税収入が急増から急落に向かう事態への対応が話題になったほどで、村幹部は「一人の納税がここまで影響を与えたことは過去になく、悩ましい」と語った。』

スタンフォード留学記

2007/06/01

東海大学 理学部 情報数理学科 鳥越規央

早いものでアメリカに着いて2ヶ月が経とうとしています。 こちらでの生活もあと残り10ヶ月となってしまいました。

生活環境にもやっと慣れてきました。 どのくらい慣れてきたかというと、最近になってやっと時差ボケが解消しました。 またバスの停留所では、ちゃんと左を向いてバスを待てるようになりました。 だいぶ慣れてきたといえるでしょう。

冗談はさておき、アメリカは初上陸なものですから、 見るもの聞くものすべてが新鮮だったりします。 なかには「あ、これ日本と同じじゃん」と思うことも多々あります。 テレビで野球中継を見ていたときのことです。 キャッチャーがパスボールをした場面で、 解説者が「キャッチャーはちゃんと球を正面でうけなきゃだめですね」 なんてことをいうわけです。 「なんだ、日本の解説者と同じこと言ってる。」  またアフラックのCMのあひるや、MAZDAのCMの「スンスンスーン」 の曲も一緒だなんて、 そのようなことを書き連ねると、きりがございません。 ちなみに今、毎日ニュースでとりあげられているのが、 川に迷いこんだ親子クジラの話題です。 土日はそのクジラを観に大勢の群衆が川の周辺に集まってます。 なんだか「タマちゃん現象」を思い出した次第です。 ただ日本と違うのは、クジラに名前はつけてませんし、 群衆相手に商売する人もいないということです。

話が完全に留学の話題から逸れています。本題にはいりましょう。 スタンフォード大学についての講釈はこちらのリンクにまかせるとして、

http://www.stanford.edu
スタンフォード大学

とにかく歴史の重みを感じる、荘厳なる大学です。 こちらでは統計学科にお世話になっています。 ほぼ毎日のように統計学関連のセミナーが開催され、 学内、学外の研究者による発表が行われています。 私もちょくちょく参加しています。 なかでも印象的だったのが、企業と大学院生の合同ゼミというものでした。 これは今をときめくYahoo! や google といった大手IT企業、 そして日本ではあまりなじみがないかもしれませんが ALLSTATEというアメリカ大手の保険会社の統計研究者と、 博士課程の大学院生が一緒にゼミを開くというものです。 大学院生は発表内容のアブストラクトと一緒に履歴書も添えています。 そうです。スカウティングなのです。 私としては、時代の先端を走る企業が、 統計学をどのように使っているかということについて、 生で聞けたということで、大変興味深かったです。

今回はスタンフォード大学で、授業に潜入してみたときのことをお話したいと思います。

その前に、予備知識を紹介しましょう。
スタンフォード大学では3ヶ月ごとにsessionが設定されています。 日本でいうところの「学期」ですね。
9月~11月 autumn session
12月~2月 winter session
3月~5月 spring session
6月~8月 summer session
となっています。

「あれ夏休みは?」と思う方もいるでしょう。 なんとスタンフォードには夏休みはありません! 夏にも授業は開講されています。 それだけ勉強できるチャンスを与えているということなのでしょう。 その他高校生を対象としたサマースクールも開講しています。 ただしサマーセッションに授業をとる学生はあまりいません。 とらなくても秋、冬、春の3学期でちゃんと単位を取っていれば大丈夫な仕組み にはなっているようです。 じゃ学生が夏の間、何をしているかというと、バイトです。 企業もそれを見越して3ヶ月の短中期求人を出し、 学生が応募します。そしてみっちりと稼いで、 その金で授業料を払っているのです。

今回潜入した講義は「統計学序論」「ノンパラメトリック検定」「計算」 の3つです。 「統計学序論」は週3回の講義と週1回のディスカッションの計4回、 「ノンパラメトリック検定」は週2回、「計算」 は週3回の講義と週2回の演習の週5回。 なお1回の講義時間は75分です。 アメリカの学生はよく勉強をするとは聞いていましたが、 それは能動的にすることもさることながら、 しなきゃいけないシステムがあるということも一つの要因なのかもしれません。 授業の間隔を狭めることによって、 忘却曲線が底に着く前にまた繰り返し学習させているのです。

さて、そのなかでも「統計学序論」について詳しく紹介します。 この講義は確率や統計の基礎的な事柄について学ぶものです。 講義教室は500人収容で、劇場みたいに席の傾斜がかなりきつくなっています。 東海大学では6号館のC棟にあるような教室にあたるものだと思ってください。 そこに受講生約300人がはいっています。

講義開始は2時15分。講義担当の教授は5分前には教室に来て、 講義の準備をしています。これは他の講義でも同じです。 講義を担当する先生は早めに教室にはいってます。

講義が始まりました。 それまでざわついていた教室内はしーんと静まり返ります。 誰一人として私語をするものはいません。 数人、小声で隣に話しかける者もいましたが、それも二、三言で終わりです。 周りに迷惑かけるような私語などできる雰囲気ではないです。 というか、私語などしてたら怒られますよ。 「誰に?」「教授に?」 いえ、他の学生からです。 「私が講義を聞くことを妨害する権利がどこにある!」みたいな感じで。  先ほどの話ともリンクしますが、 自分で稼いで授業料払っているわけですから、 授業に対する真剣味が違ってくるのでしょうね。 だから講義担当の先生も遅れてくるなんてことはできないわけですよ。

それから、講義の途中で学生からの質問が数多く出てきます。 私が聞いた講義の中でも最低10回は確実に出ます。 どんな些細なことでも質問します。また教授もそれに対して詳しく解説します。 日本だと「こんなこと聞いたらばかにされるのでは」 みたいな感情が働いてなかなか質問できないといった土壌があるようですが、 こちらではそんなことおかまいなしです。 「わからないから講義を聞いてるんだし、 この講義の中でわからないことを解決したいんです。 わからないまま帰ってたら、なんのために講義を聞きに来たの?」 ってな感じでしょうね。

あと、ちょっと驚いたのは、講義を受けている学生の2割が、 ノートパソコンを持参していたということです。 私はそれを見て「ノートに書く代わりに、パソコンに打ち込むのか。 すごいなぁ、進んでるなぁ」と感心したのです。 が、しかし!よーく見たらですよ、 そういう使い方をしている学生はほんのわずか。他は何をしてるかというと、 webみたり、メールチェックしたり、チャットやったり、 クロスワードを解いたりとまぁ、教室内で無線LANが使えるのをいいことに、 各自でいろんなことやってますな。確かに私語はしてませんけどねって感じです。 裏の一面も紹介しておきました。

「ノンパラメトリック検定」や「計算」 についての報告はまたの機会にできればと思います。 (次のコラム担当がいつになるかはわかりませんが)

最後にちょっと写真ネタをお送りしましょう。 これは統計学科の掲示板に貼られていたものです。 これは本当に大学生が書いたものか、 もしくはサマーセッションに来た高校生のものか、 はたまたネタなのかは定かではありませんが、おもしろかったので紹介します。

これは三平方の定理で、斜辺の長さを問うものです。問題文は「Find x」つまり「xを求めなさい」というものですが、ここで解答者はxにマルをつけて「Here it is」つまり「ここにあるよ」と解答してます。まぁ確かに「Find」には「見つけろ」という意味ですが。。。

画像が見にくいです。問題は「Expand (a+b)^n」つまり「(a+b)^nを展開せよ」 という問題です。でこの解答者は

   (a+b)n
=   (a + b)n
=  (a  +  b)n
= (a   +   b)n
etc
と解答してます。「expand」は伸ばせという意味もあります。

1/(x-8) のx→8 のときの極限が∞になるという例題を受けて、では 1/(x-5) のx→5のときの極限は何になるかという問題で、解答は5を横にしたものを書いています。理由わかりますか。 なんかこれネタっぽい気もしないではないですが。

√2/2を約分したら√ だけ残ったという。。。

16/64を約分しているのですが、よく見てください。分子分母の6を消して1/4としているのです。結果正解を導いてはいるのですが、これははたして。。。

これもネタっぽいです。(1/n)sin x でnを約分して残ったのがsixだか ら答えは6!

ギャンブルの愉しみ

2006/12/15

2006.12.15
東海大学 情報数理学科 志村 真帆呂

—-ギャンブルで負けない方法?簡単さ、ギャンブルに手を出さないことだ。—–

最近、部屋の片付けをしていたら “How to gamble If you must.” という副題のついた本が出てきました。これには、やむを得ない事情でギャンブルをする破目になったら、 どんな戦略で臨んだらよいのかが数学的に解説されています。最善の戦略については、この拙文の最後で触れるとしましょう。

ギャンブルで儲けたいと思ったら、潤沢な資金を持ち胴元になることです。ただし、儲けが出せるだけのお客が呼べないと悲惨。近年では、地方の公営ギャンブルがお客が集まらずに大赤字を出し続け、 地方自治体の財政を圧迫して社会問題になっています。また資金が乏しいと、たまたま大勝ちされた時に配当が払えなくなるなどの リスクが高すぎていけません。言うまでもなく、日本で勝手にギャンブルの胴元になると捕まるので要注意。

話を元に戻してなぜ胴元が有利なのかですが、 どんなギャンブルにも胴元の取り分が時に巧妙に、 そして多くの場合は堂々とシステムとして組み込まれているからです。たとえば、日本の公営競馬、競艇、競輪では払戻し金は75%なので 25%は胴元の取り分になります。

ルーレットは1から36までの数字に加え、0(さらに00が加わっているものもある) があるので、公平にするとしたら一つの数字に賭けたときの倍率は37倍 (あるいは38倍)にしなくてはなりません。 しかし、実際の倍率は36倍なので、その差が胴元の儲けの期待値になります。

世の中には稀に胴元に勝てる可能性のあるギャンブルがあります。有名どころではブラックジャックがそうで、それまでに出たカードの枚数を数えること (カード カウンティングといいます)で状況判断ができ、 適切な選択(カードを引くかどうか、賭金をつりあげるなど)が可能になります。

なぜこれが有効かというと、 通常ディーラーは何組かのトランプをよく混ぜたものを箱に入れて使用するので、 それまでに使ったカードを覚えていれば残りのカードがわかり、 その偏りを利用することで有利な戦略を取れるというわけです。

カード カウンティングは、1960年代にMIT(マサチューセッツ工科大学)の関係者 を中心に盛んに研究され、この技術で生活していた人もいたようです。そんな映画「レインマン」で一般にも知られるようになったカウンティングですが、 映画でもそうだったように現在のカジノでは禁止されています。
イカサマではなく、純粋な戦略なのに禁止するのはおかしいという向きも あるでしょう。しかし、ここにギャンブルの本質が現れています。

「胴元の利益は死守」

胴元にとっては、どの客が勝とうが負けようが関係ありません。 唯一興味があるのはトータルで胴元が勝っているかどうかだけです。これを胴元の論理といいます。逆に言うと、胴元の論理が破綻する戦略を取る客は容赦なく排除されます。ですから、ギャンブルで勝って意気揚々と引き揚げられる晩は確かにありますが、 長期間勝つのは至難の技だといえます。

カード カウンティング対策も、初期にはメモを取ったり明らかに数えている客を排除するだけでしたが、 ついには客の戦略の変化を監視するところまで進み、胴元は安泰となりました。もっとも、こういった経緯によりブラックジャック自体の人気が 落ちてしまうという皮肉な事態も起きています。

大人の分別でギャンブルを愉しむとしたら、ギャンブルのシステムを考察したり ギャンブラーと胴元の駆引きの歴史を紐解くことをお薦めします。この愉しみ方には自分の懐が痛まないという素敵な利点もありますから。

最後にギャンブルにおける賢い戦略を要約すると、 短期決戦で大きく賭け、勝っても負けても早々に引き揚げる、となります。確率的に不利でも、少ない回数なら偏りがある程度は期待できる。 そこまでしても負けたなら潔くあきらめよう、ということなんですね。

—-うまく負けた奴にだけ明日はやって来る。—–

<研究とは>,<クレイ数学研究所と懸賞問題>

2006/06/26

東海大理学部情報数理学科 松井 泰子

研究とは

小中高で使用する教科書は,文部科学省による検定を通過したものです. そのため,記載には(ほとんど)誤りが無く,章末問題の答えも省略されずに載っています.

しかし,大学には小中高の教科書に相当するものは存在しません. 専門書を教科書として使用するのです.専門書は出版に際に検定など行いませんから, 記述に誤りがあることは珍しくありません.

数学系の専門書の場合,読者は自ら間違いを発見し,自分で訂正しながら読み進めていきます. 論理の道筋が正しければ,正しい結論を自ら導きだすことが出来るのです.

講義で専門書を読むという行為は,ただ知識を学ぶだけでは無く, 考えながら読むことで,学生さんに論理的な思考力を身につけるトレーニングを 課しているのです.

一方,学生さんの反応はこちらの思う所とは違います.

「こんな間違いの多い教科書を使わないで欲しい.」

などと不満を抱くのです.(授業アンケートに書かれて落ち込みました)

そんな学生さんも,卒業研究に取り組むと愕然とするようです. 何でも知っている神様のように尊敬していた(?)教員が, 案外物を知らず,試行錯誤を繰り返すさまを目前とするのですから. その上,教員でさえ正解を知らない問題に,自分一人で取り組まねばならず, 頼りになるのは,自分の論理的思考力だけという状況を経験することになるのです.

卒業研究では,答えが未知の問題を扱います.誰も解を知らない問題に対し, 模索を繰り返して解に自力でたどりつくのです. 得られた解が正しいという保障はありませんし,そもそも解が存在しないかも しれません.それにも関わらず解を見つけ出さねばならないのです.

卒業研究に取り組んで『研究』を面白いと考える学生は,「考えることが好き」 な人です. しかし,今まで暗記を中心として学習してきた「覚えることが好き」な人には苦痛な作業となるでしょう.

「卒業研究」という登山道を迷いながら登った山頂から見る,学問という広い原野の 風景を皆さんにも是非見て頂きたいと思います.

クレイ数学研究所と懸賞問題

1900年8月8日,パリで開催された国際数学者会議において,ディビッド・ヒルベルトは 23の問題を提起しました.彼のこの問題提示は,その後の数学の発展に深い影響を与えました.

それから100年を経た2000年5月24日,同じくパリで開かれた,クレイ数学研究所 (米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の年会で, 「ミレニアム賞問題」7問が発表されたのです.

問題は以下の通りです,

  1.  P≠NP予想 (P vs NP)
  2.  ホッジ予想 (Hodge Conjecture)
  3.  ポアンカレ予想 (Poincare Conjecture)
  4.  リーマン仮説 (Riemann Hypothesis)
  5.  ヤン・ミルズ理論の存在と質量ギャップ問題 (Yang-Mills Theory)
  6.  ナヴィエ・ストークス方程式の解の存在と滑らかさ (Navier-Stokes Equations)
  7.  バーチとスウィナートン・ダイアーの予想 (Birch and Swinnerton-Dyer Conjecture)

解ければ1問につき賞金100万ドル(総計700万ドル)が貰えます.期限は無く,何を見ても誰と相談しても構いません.

ただし,解けたかどうかの判定が難しいので,次のようなルールが決められています.ます,解けたと思う者はまず数学の専門誌に発表します.2年経過しクレームが 来なかったら顧問委員会がつくられ,詳しく調べ間違いなしと判定されて 初めて賞金にたどりつけるのです.

これらの問題は,実際には同じ難易度ではないということが指摘されていますが, いずれにしろそれぞれの分野で非常に重要かつ難しい問題であるのは確かです.

ただし,1と6については予想を肯定的・否定的のいずれの解決に対しても 賞金が与えられますが,他の問題については,否定的な解決は,それが問題の実効的な 解決であるとみなされる場合に限り,賞金が与えられます.

あなたはどの問題にチャレンジしてみたいですか?

クレイ数学研究所