国際情報オリンピック参加記

2008/11/01

東海大学理学部情報数理学科 原正雄

2008年8月16日から23日にかけて行われた第20回国際情報オリンピックエジプト大会(IOI2008) に参加したのでその報告をします.

大会の概要

国際情報オリンピック(International Olympiad in Informatics, 以下 IOI) は今年で20回を数える高校生以下を対象としたプログラミングコンテストでいわゆる科学オリンピックの1つです. 1989年から毎年開催されています.日本は1994~1996年に参加した後しばらく参加していませんでしたが,2006年から参加を再開しました.IOI2008 はエジプトの首都カイロの Mubarak city for education という施設で行われ73ヶ国・地域から283人の選手が参加しました.日本からは4人の選手と5人の役員が参加し,金メダル1人,銀メダル1人,銅メダル2人と全選手がメダルを取る好成績をあげました.

コンテストは2日間行われ,1日に3問の課題が出題され試験時間 5時間の間にそれらの課題を解くプログラムを作るのが問題です. 選手1人に1台のコンピュータが用意され,それを用いて答案のプログラムを作成するのですが,答案の提出や採点が会場に敷設されたローカルなネットワークを用いてオンラインで自動的に行われるのも情報オリンピックならではのことです.また,最近ではコンテストとほぼ同時にインターネットを用いたオンライコンテストを実施するようになりました,問題は情報オリンピックと同じ問題です..こちらは高校生はもちろん大学生でも誰でも参加できますのでプログラミングに自身のある方はぜひチャレンジしてみてください.

各課題についていくつかのサンプルデータに対して答案のプログラムを実行し,その結果で1つの課題について100点満点で採点されます.合計600点満点の採点結果をもとに成績が決定されますが,上位1/12が金メダル,1/4が銀メダル,1/2が銅メダルを授与されます.

大会のメインはコンテストですが,コンテスト以外にもエクスカーション(遠足)やパーティー,レクリエーションなど行われ,同じような才能をもった高校生たちが国際交流する機会ができることも科学オリンピックの大きな意義の1つです.情報オリンピックの場合, TopCoder などの他のコンテストにも参加している選手も多いので IOI 期間中のネットによる交流も盛んです.

参加日記

登場人物

日本選手団

  • 副島君(Contestant)
  • 滝聞君(Contestant)
  • 保坂君(Contestant)
  • 松元君(Contestant)
  • 谷さん(Leader)
  • 福澤さん(Guest)
  • 秋葉さん(Guest)
  • 渡部さん(Guest)
  • 原(Deputy Leader)

8月16日(Arrival Day)

成田からエジプト航空の直行便で13時間,カイロについた時には夜中でした.税関(たぶん)で並んでいると IOI の出迎えの人が声をかけてくれ,その後の交渉をしてくれました.書類の不備で何度も列に並びなおす人がいる中で並びなおすこと無く通り抜けられたのは彼のおかげです.空港にも IOI2008 のロゴの描かれた看板がありました.

用意された車に乗り込み会場に向へ,深夜だというのに渋滞,それにしてもハイウェイのはずなのに歩いている人や停車している車がそこここにいるだけでなく隙間さえあれば車線と車線の間でも平気で入ってくるのであちこちでクラクションが鳴っているのは日本では考えられない状態です.1時間ほどで宿舎について,レジストレーションで時間がかかり3時過ぎになってやっと落ち着きました.

8月17日(Opening Ceremony – Practice Session)

朝,目が覚めるとまわりは一面の砂漠でした, 出発前に google map で見て予想したとおりです.ガイドからプラクティスの時間が変更になると連絡を受けましたが,開始の時間がはっきりしません.終わってみれば9時の予定の開会式が11時に11時の予定のプラクティスが2時半にと大幅に時間が遅れました.IOIに予定の変更はつきものですが口頭だけではなく掲示などでも連絡があるのが普通なのですが今回はあてにできないようです.

今日もっとも大事なイベントはプラクティスです, プラクティスは選手がコンテストで使うコンピュータとシステムに実際に触れてみることができる唯一の機会です.団長,随行員,選手が予め渡されたルールに書かれているとおりにシステムが動作するかを確かめました.その間私はどうしていたかというと,鍵が壊れた選手の部屋に残り廊下を歩いていた IOI のスタッフに鍵の修理を依頼し,鍵の交換に立ち会っていました.新しい鍵を持ってプラクティスの会場についた時にはかなりの時間がたっていました.

夜の GA Meeting でコンテスト1日目の問題が検討され,夕食をはさんで翻訳作業に入ります.この GA Meeting から1日目のコンテスト終了までは選手たちと隔離されます.ところがここで問題が発生しました.谷さんと私は選手たちから隔離される部屋ですが,それ以外の3人は選手たちから隔離されない部屋に割り当てられていました.そこで谷さんと私の部屋にはベッドは4つあるので5人でそこに寝ることで主催者側と申し合わせたのですが,夜半過ぎに部屋に戻る途中のチェックで3人の立ち入りを拒否さました.しばらく口論した後自分たちの良心に従って行動するということでやっとベッドルームにたどり着きました.

8月18日(Competition Day 1)

コンテストは大方の予想通り遅れてスタート,30分程度の遅れなので今考えると許容範囲というべきでしょう.初日のコンテストの問題は大変難しく選手たちはかなりショックを受けたようです.テレビクルーによると外国の選手たちもショックを受けたようで取材しずらい雰囲気だったそうです.コンテストの後,採点結果を確認する Analysis がありました.夜はナイル河のクルージングをしながらの Dinner でしたが,ナイル河へ向かう途中のバスの中から初めてピラミッドを見て感動しました.

8月19日(Excursion 1 )

今日はギザのピラミッド見学です.ピラミッドから少し離れたラクダ乗り場へバスが着きました.ラクダの背中は高く結構ドキドキです.それよりドキドキするのはラクダを引くお兄さんや子供たちのチップの要求です.カザフスタンの Leader のおじさんが颯爽と砂漠を馬で走っていたのはさすがでした.次にバスはクフ王(たぶん)のピラミッドへ行きました,近くで見るピラミッドは圧巻です.ピラミッドの近くに行くと登りたくなるのは不思議です(もちろん自制しました).最後にバスはスフィンクスへ,まわりにファーストフード店があるのは以前テレビで見たとおりでした.とにかく感激のエクスカーションでした.

ピラミッドから帰ると選手たちは自由時間,施設内のIMAXシアターで恐竜の映画を見たりしていたようです.私たちは翌日のコンテストの問題を検討する GA Meeting の後,問題の翻訳作業が待っています. 今夜も谷さんと私の部屋に5人で泊まるので,Meeting の前に3人が部屋に荷物を運んできました. さて,GA Meeting で問題が配られて読んでみると渡部さんが提案した問題が採用されていました.改めて彼の実力に驚かされました.翻訳はかなり時間がかかり最後の数カ国になったようで頻繁にスタッフが様子を見に来ていました.

8月20日(Competition Day 2)

2日目のコンテストは大きな行われました.その最中に IOI Conference があり谷団長が情報オリンピック日本委員会の取り組みについて講演しました. 谷先生ご苦労様でした. IOI Conference の後は環太平洋地区の情報オリンピック APIO の会議があり,各国代表に 5月に行われた今年の APIO の優秀者の表彰状が渡されました. 実は APIO は IOI 以上に厳しいコンテストで,日本の選手たちはなかなか金メダルが取れません.アジアには中国,韓国,タイなど国をあげて強化している国がたくさんあります.

この日はコンテストも Analysis も順調に終わり IOI も峠を越した感じです.夜は VIP パーティーです.例年なら選手以外の Guest も参加するのですが,今年はエジプトの大臣主催のパーティーで各国2名 Leader と Deputy Leader または Leader とそのパートナーしか参加できませんでした.事前に

Invitation

が届いていました.例年はワインが出るのですが,エジプトはイスラムの国なのでアルコールはご法度です.

8月21日(Closing Ceremony)

選手たちは 9時から11時までは自由時間,私たちは GA Meeting でその後はみんなで Dream Park という遊園地に行く予定でしたが, GA Meeting が大幅に伸びて Dream Park には選手たちだけが行きました.選手たちによるとエジプトの遊園地のアトラクションは日本のものより激しいそうです.この日の GA Meeting では今年の問題が難しすぎるという意見が出たのが印象に残っています.1割近くの参加者が0点だったので無理もないことです.

閉会式はメダルの授与がメインですが,メダリストたちは得点の少ない順に10名程度ずつ銅メダルから呼ばれます.最初のグループで呼ばれた選手のうち日本チームの近くに座っていた選手の点数が日本の選手たちより低い点数であることがわかったのでこの時点で全員メダルを獲得したことがわかりました.最終的には金メダル,銀メダルを1つずつ,銅メダルが2つでした.

選手諸君おめでとう!!!

8月22日(Excursion 2)

今日は実質的な最終日です.普通は閉会式の前に遠足に行くのですが,宗教上の(たぶん)理由で逆順になったようです.カイロからバスで3時間かけてスエズのビーチまでやってきました.午前中はみんなでビーチにいましたが,昼食後は海水浴を楽しむグループと部屋でくつろぐグループとに分かれました.

夜は Farewell Party でしたが, 日本チームはだれも参加しなかったようです.皆さんお疲れ様でした.

8月23日(Departure Day.)

今日の最も重要な仕事はみんなで無事に飛行機に乗ることです.余裕を持って立てたはずの予定ですが,バスが足りないのか出発するはずの時間なのにバスがまだ来てもいません.最後までドキドキです.帰りの飛行機は成田ではなく関空行きです.飛行場では関西弁の会話が聞こえてきます.出国手続きをして,搭乗を待つ間,スターバックスに入りましたが,表示の金額より高い金額を請求されます.店員に聞くと Tax という返事,何でここで税金何だと主張すると,Tax は半額になりました.免税のはずの場所で税金を要求され,文句を言うと安くのは不思議です.最後までエジプトでした.

最後に

情報(プログラミング)に限らず学生(高校生だけではなく中学生や大学生も)さんがコンテストを目標に勉強することは悪くないと思っています.限られた時間と特別な問題設定で競うコンテストで要求される能力の全てがそれぞれの分野を学び,研究する能力や適性を反映していいるとは思いません.コンテストであまり良い成績を上げられなかった人が将来素晴らしい研究者になる場合もたくさんあるでしょう.しかし,コンテストで優秀な成績を残した人が才能に恵まれているのもまた事実です.コンテストの意義は学ぶきっかけになること,参加者たちに自分の実力を具体的に提示すること.そして何よりもコンテストやそのための教育の場を通じて,同じような才能を持った人たちと知り合うきっかけを与えることです.日本情報オリンピックで優秀な成績をあげてIOI代表を決める合宿に参加したの学生さんのほとんどが次の年も参加しています.

とくに,情報の場合,高等学校以下の学校教育の歴史が浅く,まだ十分に機能していないのが現状です.情報オリンピックのような活動が高校生の皆さんが情報を学ぶきっかけになればうれしいと思っています.アルゴリズムやプログラミングをこれから勉強しようという人たちに向けたアドバイスや教材へのリンクが情報オリンピックのホームページにありますので参考にしてください. また,プログラミングは一応勉強したのがさらに深く勉強したい,今の実力を試してみたいという学生さんには(大学生も含めて) 多くのコンテストがオンラインで実施されているので挑戦してみてください.また, Online Judge と言って問題と解答の投稿,採点などをしてくれるサイトがありますので利用するとよいでしょう.

日本選手団の紹介

副島君(Contestant)

IOIは初参加だが数学オリンピック(IMO) には中学生の時から参加している.IMO では去年今年と連続して金メダルを獲得しているだけでなく, TopCoder でも日本のベスト10に入っている(2008年10月現在)高校2年生.

滝聞君(Contestant)

IOIは初参加だが IMO には2年連続で参加し,銀メダルと銅メダルを獲得している高校2年生

保坂 君(Contestant)

IOIは初参加,今年は IMO にも参加し,銀メダルを獲得した高校2年生.

松元君(Contestant)

IOI には去年に続いて2度目の参加,去年は銅メダルを獲得,今年は物理オリンピックにも参加し銀メダルを獲得した高校3年生

谷さん(Leader)

メキシコ大会(IOI2006)から3大会連続で団長務める情報オリンピック日本委員会にはなくてはならないスタッフ.原とは同じ大学の出身で情報オリンピックだけでなく,研究,プライベートでも大変お世話になっている友人.古いことなので記憶が定かではないが彼によると私の方が先輩らしい.

福澤さん(Guest)

学部在学中はACM/ICPCの選手として活躍,大学院生になった現在もコンテストで活躍するだけでなく ACM/ICPC の OB/OG 会のスタッフとしても活躍中.日本情報オリンピックでは本選,合宿のスタッフ,チューターと大活躍.

秋葉さん(Guest)

IOI2006 の日本代表で現在は大学2年生.いろいろなコンテストで大活躍,まさに現役バリバリ.日本情報オリンピックでは合宿のチューターや夏合宿の企画を担当.

渡部さん(Guest)

IOI2006 の日本代表で同大会の金メダリスト.IMO でも 2回金メダルを獲得した大学2年生.日本情報オリンピックでは合宿のチューターなどを担当.

原(Deputy Leader)

クロアチアに続いて2回連続の参加,今回は経験豊富な団長と優秀な選手,随行役員の中で最年長者としてよく言えば雰囲気作り,実際的には邪魔にならなりようにするのが仕事と心得ている.