<研究とは>,<クレイ数学研究所と懸賞問題>

2006/06/26

東海大理学部情報数理学科 松井 泰子

研究とは

小中高で使用する教科書は,文部科学省による検定を通過したものです. そのため,記載には(ほとんど)誤りが無く,章末問題の答えも省略されずに載っています.

しかし,大学には小中高の教科書に相当するものは存在しません. 専門書を教科書として使用するのです.専門書は出版に際に検定など行いませんから, 記述に誤りがあることは珍しくありません.

数学系の専門書の場合,読者は自ら間違いを発見し,自分で訂正しながら読み進めていきます. 論理の道筋が正しければ,正しい結論を自ら導きだすことが出来るのです.

講義で専門書を読むという行為は,ただ知識を学ぶだけでは無く, 考えながら読むことで,学生さんに論理的な思考力を身につけるトレーニングを 課しているのです.

一方,学生さんの反応はこちらの思う所とは違います.

「こんな間違いの多い教科書を使わないで欲しい.」

などと不満を抱くのです.(授業アンケートに書かれて落ち込みました)

そんな学生さんも,卒業研究に取り組むと愕然とするようです. 何でも知っている神様のように尊敬していた(?)教員が, 案外物を知らず,試行錯誤を繰り返すさまを目前とするのですから. その上,教員でさえ正解を知らない問題に,自分一人で取り組まねばならず, 頼りになるのは,自分の論理的思考力だけという状況を経験することになるのです.

卒業研究では,答えが未知の問題を扱います.誰も解を知らない問題に対し, 模索を繰り返して解に自力でたどりつくのです. 得られた解が正しいという保障はありませんし,そもそも解が存在しないかも しれません.それにも関わらず解を見つけ出さねばならないのです.

卒業研究に取り組んで『研究』を面白いと考える学生は,「考えることが好き」 な人です. しかし,今まで暗記を中心として学習してきた「覚えることが好き」な人には苦痛な作業となるでしょう.

「卒業研究」という登山道を迷いながら登った山頂から見る,学問という広い原野の 風景を皆さんにも是非見て頂きたいと思います.

クレイ数学研究所と懸賞問題

1900年8月8日,パリで開催された国際数学者会議において,ディビッド・ヒルベルトは 23の問題を提起しました.彼のこの問題提示は,その後の数学の発展に深い影響を与えました.

それから100年を経た2000年5月24日,同じくパリで開かれた,クレイ数学研究所 (米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の年会で, 「ミレニアム賞問題」7問が発表されたのです.

問題は以下の通りです,

  1.  P≠NP予想 (P vs NP)
  2.  ホッジ予想 (Hodge Conjecture)
  3.  ポアンカレ予想 (Poincare Conjecture)
  4.  リーマン仮説 (Riemann Hypothesis)
  5.  ヤン・ミルズ理論の存在と質量ギャップ問題 (Yang-Mills Theory)
  6.  ナヴィエ・ストークス方程式の解の存在と滑らかさ (Navier-Stokes Equations)
  7.  バーチとスウィナートン・ダイアーの予想 (Birch and Swinnerton-Dyer Conjecture)

解ければ1問につき賞金100万ドル(総計700万ドル)が貰えます.期限は無く,何を見ても誰と相談しても構いません.

ただし,解けたかどうかの判定が難しいので,次のようなルールが決められています.ます,解けたと思う者はまず数学の専門誌に発表します.2年経過しクレームが 来なかったら顧問委員会がつくられ,詳しく調べ間違いなしと判定されて 初めて賞金にたどりつけるのです.

これらの問題は,実際には同じ難易度ではないということが指摘されていますが, いずれにしろそれぞれの分野で非常に重要かつ難しい問題であるのは確かです.

ただし,1と6については予想を肯定的・否定的のいずれの解決に対しても 賞金が与えられますが,他の問題については,否定的な解決は,それが問題の実効的な 解決であるとみなされる場合に限り,賞金が与えられます.

あなたはどの問題にチャレンジしてみたいですか?

クレイ数学研究所