第44回国際数学オリンピック日本大会に参加して

2003/09/01

東海大学理学部情報数理学科 原正雄

第44回国際数学オリンピック日本大会にコーディネーターとして参加してきたのでそのことについて書いてみる.

まず, 簡単に国際数学オリンピックについて説明しよう, 詳しくはホームページを見てほしい.
国際数学オリンピック(IMO)は高校生以下の人たちの数学のコンクールで2日にわたる筆記試験(1日に3問で試験時間は4時間半)の結果で入賞を決めるコンテストである.
問題(1日目, 2日目)は日本のカリキュラムで言えば高校2年であれば知識的には十分ではあるがは非常に難しい.

各国の選手たちは母国語で解答し, 各国のチームリーダーが採点をするのだがそれを主催国がチェックをして最終的な得点を決定する. このチェック作業をコーディネーションと呼ぶ. 各国のチームリーダーと話し合って得点を決めるのが私のやったコーディネータの仕事である.

全く理解できない言語で書かれた答案を読み(見る?)だけでなく不得手な英語で交渉をする仕事なので緊張したが, 貴重な経験をさせてもらったのでそのとき感じたことを思いつくままに書いてみる.

まず面白かったのは意味がわからないながらも多種多様な言語で書かれた数学の答案を見たことである. 全く出来ていない答案がすぐそれと判るのは当然として, 多くの場合完全に出来ている答案も言葉の壁を乗り越えて判るのは面白かった

さらに印象に残ったのは 0点のものも含めてほとんどの答案が選手たちの数学の能力が非常に高いことを感じさせてくれたことである. というのは得点にならないにしても答案には選手たちがそれぞれの知っている知識をすべて使って問題を解こうとする強い意欲がはっきりと表れているのである. 私の経験では数学の問題がわからないとき出来ない学生ほど早く諦めてしまう, 今までに質の高い数学の勉強をしてきて実力と自信のある学生でなければオリンピックの選手たちのように粘り強くひとつの問題にチャレンジすることは出来ない.

高校でも研究でもレベルを問わず数学を学ぶ際に最も大切なことは自分が納得いくまで考えることである. 理解できないことを質問することは悪いことではないが十分に考えた後で教えてもらった方が理解が深いのである. ろくに考えもせず答えを教えてもらった場合, その場で納得できたとしても後に残らない場合が多い. 私は学生に質問されたとき, 相手の学力にもよるが出来るだけ直接的な答えではなく, ヒントか教科書のページや授業で説明した時期を答えるようにしている. 学生によっては質問に対する応答が不親切だと思うかもしれないが, 自分で答えを導き出してほしいからであり, 導き出せないにしても教科書やノートから答えを探し出した方がずっと勉強になるからである.

この辺で私の担当した問題を例に選手たちのアプローチを見ていこう. 問題は1日目の2番である.

次の値が正整数になるような, 正整数の組み(a, b)をすべて求めよ.
a^2/(2ab^2-b^3+1 )

この問題の解答はたくさん考えられるのだが, すぐに解答の方針を確信できる人はまずいないだろう. これからの話は私が想像した選手たちの解答までの歩みの1例を紹介しよう.

標準的な方法としては問題の分数を k とおいて考えることだと思われる. すると a についての2次方程式が得られ, それが正整数解を持つために条件を考察することになる. 判別式が平方数(自然数の2乗)になる条件を考察することは自然であり, 実際私の見た正解の答案ではこの方法が多かったが, 決して簡単ではない.

しかし, 難しいからといって選手たちは諦めない. 様々な方法で考察を続ける. 例えば, 判別式を m の2乗とおいて, さらに k についての2次方程式を考えもう一度判別式を考える. この方法は不可能ではないが私が見た中には正解にたどり着いたものはなかった. それ以外に b の偶奇や, 4 や 8で割ったあまりで場合分けするなどいろいろなアプローチが見られたが満足な答案は少なかった.

多くの選手はここまで来て手詰まりになっただろうと思われる. そこで単純な場合を考えて一般の場合のヒントを得ようとするだろう.
例えば a についての 2次方程式をみると b=1 の場合は特殊であることがわかるのでその場合を考えると1連の解の系列が見つかる. さらに分母を 1 とおいてみるともう1つの解の系列が見つかる, そしてこの場合2次方程式のもう1つの解も別の系列につながっていることが判る. 実はこれですべての解が見つかったのだが, それを証明することはそう簡単ではない.

これらの考察を通じてこの問題に精通してくると最初の判別式が平方数になるための条件を求めることが出来るようになると思われる. これ以外にも解答にたどり着く道はいくつかあるが, いずれにしろ一本道というわけにはいかないと思われる.

私はコーディネーションの後このコラムを書くために改めてこの問題を考え, それまでに知っていた解答と違う解答を探した, 全く答えを知らない状態で立ち向かった選手たちには比べようもないが私なりにこの問題を楽しむことが出来た. おそらく参加した選手のほとんどが私以上にこの問題の難しさを楽しんだことと思う. 解けない問題を考える過程を楽しむことが出来るようになれば数学ほど楽しいものはないと思えるようになるだろう.
最後に解答を別のページに書いておく.