0は自然数か

2003/01/01

東海大学理学部情報数理学科 板井昌典

大学1年生に「0は自然数である」と言うと,「本当ですか!」とか、 「高校では、自然数は1から始まる、と教わりました」という反論が かえってきます.また『広辞苑』には,「正の整数」として「自然数」 が定義されています. このコラムをお読みの貴方はどう考えますか.結論を急がず,しばし一緒に お考え下さい.

ものの個数を表す「数」,順番を表す「数」としての自然数は,どうやら かなり小さな子供にも理解できるようです.心理学や教育学のことは よく知りませんが,親としての体験・経験からこのように思えます.幼児が「数」という高度に抽象的な考え方を身に付けているとは思えませんが, 道に石ころが2個落ちているとか,公園に行ったら桜の落ち葉が3枚あったとか は理解しているようです.個数を表す「数」という概念までは到達していなくても,具体的に目の前にある対象と結びつけながら,2個とか3個 といった考え方を理解しているようです.

順番の方はどうでしょうか.ブランコや滑り台の順番待ちの例が分かり易いでしょう. 自分が1番初めにブランコに乗ることが出来るとか,滑り台のところにはすでに 3人並んでいるから,自分の順番は4番目だ,という具合には分かっているみたいです.

個数や順序を基本に考えれば,自然数を1, 2, 3, … という具合に1から始める のは分かりやすい.「アメを0個しか持っていないから,悲しいの」などと言う 小学生にお目に掛かりませんし,第一可愛げがありません. アメを持っていない事を,「0個持っている」と考えるには飛躍が必要です.また 順番待ちをしていて「自分は最初だから,0番目だ」と考えるにも飛躍が必要です.

という次第で,どうやら高校までは「自然数は1から」と教えるようです. というより,「自然数」という概念を積極的に導入していないかも知れません. 「整数」,「有理数」,「実数」そして「複素数」という順序で「数」の体系を 紹介しますが,そのなかで「正の整数」という捉え方で自然数を紹介して いるようです.「非負整数」として自然数を紹介してはいないようです. ですから大学1年生が「自然数は1から始まる」と答えるのは無理もありません.

ではなぜ大学に来ると「0は自然数だ」となるのでしょうか. それは「数」をどのように定義するかによります. 「複素数」を定義するのに「実数」を用い,「実数」を定義するのに 「有理数」を用い,「有理数」を定義するのに「整数」を用います. 「整数」を定義するのに「自然数」を用います. そして「自然数」は 「集合」を用いて定義することが出来ます.このようにして,「複雑なものを 簡単なものを用いて定義する」という方針でいくと,いつか「もうこれ以上 簡単なものに還元できない」という事態に至ります.

「集合」を用いて「数」を定義することにすると,実は「0は自然数である」 とした方が「自然」なのです.集合論の基礎を勉強すると,この辺りの事情が よく分かります.「自然数が0から始まろうが1から始まろうが,ドッチデモ 同じではないか」などと片付けてしまわずに,一度集合論の本を眺めてみて 下さい.

参考文献:『新装版 集合とは何か』竹内外史,ブルーバックス,講談社