読書の秋

2002/11/01

東海大学理学部情報数理学科 原正雄

私が今までに読んだ本の中から高校生でも読めそうなコンピュータに関する本、コンピュータが重要な役割を演ずる小説を気の向くままに紹介してみよう。 このところ読書量が落ちているので古いものが多く手に入り難い場合もあるかもしれないが、情報数理学科や情報系の学科を目指している学生や在校生の暇つぶしに協力できれば言うことはない。 最後にできるだけ詳しく紹介した本の情報を入れて置くので手に入れる際の参考にしていただきたい。

まずは私の最も好きなArthur C. Clarke (アーサー C. クラーク)のものから

  • 2001年宇宙の旅
  •  2010年宇宙の旅

2001年宇宙の旅は映画にもなった(正確には映画の原作として書かれた)有名な SFなので知っている人も多いだろうがこの中に出てくる HAL 9000型コンピュータ(Heuristically programmed ALgorithmic Computer)は専門学校の名前になるほど有名なコンピュータである。 2001年のメインテーマは宇宙人とのコンタクトなのだが、宇宙船ディスカバリー号に搭載された HAL とボーマン船長の対決は映画版では見せ場のひとつになっている。 是非、小説版、映画版の両方を楽しみたい。
2010年宇宙の旅はその続編でこれまた映画にもなった。ここにも HAL とその双子の妹 SAL9000 が出てくる。 これまたメインテーマはコンピュータではないのだが、 HAL や SAL とその生みの親チャンドラ博士のやり取りは面白い。 私はチャンドラが結構気に入っている。こちらは小説版だけでも充分だろう。
2001年のシリーズはその他に「2061年宇宙の旅」 「3001年終局への旅」 がある。 Clarke の年齢を考えるとこれまでのような気がするが私は密かに次を期待している。 また、 Clarke の英語は読みやすいのでさらに暇な人は原書を読むのがお勧めである。 ただし、 私の場合は 3001 年の原書を出版直後に買い読み終わる前に翻訳が出たという経験がある。

次も SF で James P. Hogan (ジェイムズ P. ホーガン) のもの

  •  未来の二つの顔

宇宙ステーションを使って人工知能の安全性を検証するという話でメインテーマがコンピュータで、内容もスリリングで面白い。ホーガンは元 DEC のセールス・エンジニアだったらしく、 その他にも多くの作品の中でユニークなコンピュータを登場させている。コンピュータとは関係のない話だが、 「星を継ぐもの」、 「ガニメデの優しい巨人」、「巨人たちの星」 の3部作はとても面白いので是非読んでみると良いと思う。これらの後半にもゾラックという面白いコンピュータのキャラクタが登場する。

ノンフィクションに近いもの

  • カッコウはコンピュータに卵を産む(上 下)、Clifford Stoll (クリフォ-ド スト-ル)
  • ネットワ-ク犯罪入門、 ビル ランドレス

どちらも実話をもとにしたクラッカー(いわゆるハッカー) の話である。
「カッコウはコンピュータに卵を生む」はクラッカーに侵入されたコンピュータの管理者がクラッカーを追跡し、捕まえる話で、多少コンピュータの知識があったほうが読みやすいがかなり詳しい注があるので知らない人でも読めると思う。かなり古い話なので今とは状況を違うだろうが小説としても結構いける。原文のタイトルが “THE CUCKOO’S EGG” なのに邦訳のタイトルは表記のようになっている。 おそらくフィリップ K ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を意識したものだろうが気に入らない。
「ネットワーク犯罪入門」 は逆にクラッカーの側がその手口を書いたもの、先のカッコウよりもさらに古いのだがすでにトロイの木馬などの手口が紹介されている。

最後にコンピュータサイエンスを紹介するもの

  • 情報セキュリティの科学、 太田和夫 黒澤馨 渡辺治
  • 中国人郵便配達問題=コンピュータサイエンス最大の難関、 西野哲朗
  •  ゼロからわかる数学―数論とその応用、 戸川美郎

どれも高校生でも読めるコンピュータサイエンスとその関連分野を紹介した本で良い啓蒙書である。
「情報セキュリティの科学」 は今回の本では一番のお勧め。ネットワークセキュリティに関する話で、公開鍵暗号、デジタル署名などを判りやすく紹介している。とにかく読んでいて面白い、最近また読み直したが一気に読んでしまった。数学的な部分は府労苦などに分けて本文はできるだけ数式なしで読めるように工夫してあるが、決していい加減には書いていない。数学には自身がないが公開鍵暗号がどんなものか知りたい人はこの本を読むと良い。暗号を勉強したい学生が最初に読んで感覚をつかむのにも使える、最後には当然参考文献も載っている。
「中国人郵便配達問題」 は計算の理論を紹介した本である。前半では NP 完全問題の解説、 後半では量子コンピュータの解説をしている。 前半は判りやすいのだが、後半はかなり難しい。 前半だけでも読む価値は充分あるし(この言い方は日本の量子コンピュータ研究の第一人者である著者に失礼であるが)、コンピュータサイエンスの必須項目を判りやすく解説してあるので計算の理論を勉強するため準備として使える。 後半も高校生には難しいだろうと私が勝手に思っているだけだろうし、量子コンピュータを勉強する前に感覚をつかむためにはこの本の後半は貴重な存在である。
「ゼロからわかる数学」 はタイトルからも想像がつくように、どちらかというと数学の本で著者いわく数学の“感性”の入門書である。 整数論の基本を紹介して、それを応用した暗号の話しを紹介している。 今まで紹介した中では専門書に近い体裁で書いてあるので専門書入門にも適している。 正直に言うと他の本と違い全部を読んだわけではない、重要な部分だけを読んだだけなのだが、読みやすかったし、ご本人と話しているような気になった。 学校の勉強より少し進んだ数学を勉強したい高校生にはお勧めの本である。

本のデータ

Arthur C. Clarke (アーサー C. クラーク):
訳本

2001年宇宙の旅 決定版、ハヤカワ文庫、伊藤典夫訳、640円
2010年宇宙の旅、ハヤカワ文庫、伊藤典夫訳、 760円
2061年宇宙の旅、ハヤカワ文庫、山高昭訳、680円
3001年終局への旅、ハヤカワ文庫、伊藤典夫訳、660円
原著
2001: A Space Odyssey, Roc, ISBN: 0451457994
2010: Odyssey Two, Ballantine Books, ISBN: 0345303067
2061: Odyssey Three, Ballantine Books, ISBN: 0345358791
3001: The Final Odyssey, Ballantine Books, ISBN: 0345423496

James P. Hogan (ジェイムズ P. ホーガン)
訳本
未来の二つの顔、 創元推理文庫、山高昭訳、 840円
星を継ぐもの、 創元推理文庫、 池央耿訳、 600円
巨人たちの星、 創元推理文庫、 池央耿訳、 940円
ガニメデの優しい巨人、 創元推理文庫、 池央耿訳、 640円
原著
The Two Faces of Tomorrow, Baen Books, ISBN: 0671878484
Inherit the Stars, Ballantine Books, ASIN: 0345257049
Gentl Giants of Ganymede, Del Rey Books, ASIN: 0345273753
Giants’ Star, Del Rey Books, ASIN: 0345287711

Clifford Stoll (クリフォ-ド スト-ル)
訳本
カッコウはコンピュ-タに卵を産む 上、草思社、 池央耿訳、1,900円
カッコウはコンピュ-タに卵を産む 下、草思社、 池央耿訳、1,900円
原著
Cuckoo’s Egg: Tracking a Spy Through the Maze of Computer Espionage, Pocket Books, ISBN: 0743411463

ビル ランドレス
ネットワ-ク犯罪入門 コンピュ-タ・システム侵入者ハッカ-の告白、アスキ-、椋田直子訳、 絶版?
原著
手元に訳本もないので情報がありません。

太田和夫 黒沢馨 渡辺治
情報セキュリティの科学―マジック・プロトコルへの招待、講談社ブルーバックス、 880円

西野哲朗
中国人郵便配達問題=コンピュータサイエンス最大の難関、講談社選書メチエ、 1600円

戸川美郎
ゼロからわかる数学―数論とその応用、朝倉書店 シリーズ 数学の世界〈1〉、 2500円