微積分学の歴史

2002/06/01

東海大学理学部情報数理学科 楢崎隆

松井先生から引き継いだ楢崎です。2年生を対象として解析学序論を教えています。
ここではニュートン(1642-1727)までの微分積分学の歴史について概略を記してみます。

微分法、積分法は古代文明にその起源があり、ギリシアの数学を経由し、17世紀欧州 における発展の後に、ニュートンとライプニッツ(1646-1716)に独立に微分積分学の基本定理を発見し形を整えました。それ以降天体力学に適用され、連続性の概念について精密化され、19世紀に完成しました。微分積分法は特定の個人が発見したものではなく、多くの先人の努力によって、歴史の中で徐々に発見されていったと見るのが適当なようです。

  1. 微分積分学の萌芽
    積分法につながるアイデアを用いて、アルキメデス(BC287?-BC212)は放物線と 直線とで囲まれた図形の面積を求める方法を発見しました。彼の方法(取り尽くし法) は1種の背理法(仮定法)であり、新しい結果を発見するためのものではなく、証明 すべきことを前もって知る必要がありました。(ブルバキ;数学原論、歴史覚えがき) 微分法に関しては、ギリシアに運動学がなかったために発展しませんでした。
  2. 微分積分学前史
    コペルニクス(1473-1543)は地動説を唱えて、天体の運動を科学的に探求する端緒となりました。ピサの斜塔での実験で有名なガリレイ(1564-1642)は落体の運動を研究し、加速度、重力加速度を発見しました。これは、微分積分学の出発点の1つと考えられます。また、木星の衛星や土星の輪を発見し、地動説を支える基になりました。
    天才的な天体観測者であるティコ‐ブラ-エ(1546-1601)は生涯をかけて天体を観測し、死の直前に観測記録をケプラーに託しました。 渡されたケプラー(1571-1630)は、長い時間(一説には25年間)をかけて、火星の軌道を計算します。ティコの観測資料と適合させるため、楕円軌道を導入し、ケプラーの法則を発見しました。楕円軌道の導入は、当時のキリスト教会による教条主義的世界観と異なり、天体の運動と地上の運動を統一的に扱おうとする端緒となりました。この考えはニュートンの 万有引力の法則によって明確になります。
    他方、デカルト(1596-1650)は座標平面という考えを導入しました。この考えによって幾何学が解析学と結びつくようになりました。
    17世紀には多くの研究者が、運動学と関連して、微分法に関連する多くの結果を残しています。
  3. 微分積分学の成立
    ニュートンは近代物理学の創設者であり微積分の発見者といわれています。彼は 微分積分学の基本定理を発見し、従来は別の学問であると思われた微分法と積分法 を統一しました。同時に彼は万有引力の法則を発見しました。研究結果は有名な「プリンキピ(1687)」に発表されました。ニュートンは科学史上でも稀な天才であるばかりでなく、人間的な意味でも多くの 研究者にとって興味深い対象です。少し遅れて、ライプニッツも、微分積分に関し て、ニュートンと同様な仕事を残しています。
    なお業績をめぐるニュートンとライニプニッツの対立の為、イギリスは孤立し、以 後、微分積分学やニュートン力学は、オイラー(1707-1783)、ラプラス(1749-1827)、 ガウス(1777-1855)、コーシー(1789-1857)、フーリエ(1768-1830)等によって、 ヨーロッパ大陸で発展してゆきます。

微分積分学は完成した学問であり、今は、直接の研究対象とはなっていません。微分積分学から微分方程式論、フーリエ解析等解析学の様々な分野が分化し発展しました。しかし、微分積分学は様々な学問分野において、必須の道具として用いられています。実際、微分積分学は「比類のない道具であって、形成後ずっと使われていながら、その切れ味はまだ完全には鈍ってしまってはいない」(ブルバキ、一部改変)と評されています。

微積分の歴史を調べるにあたって以下の書籍をを参考にしました。
C. B. Boyer 著 数学の歴史 朝倉書店
中村幸四郎 著 近世数学の歴史 日本評論社
ブルバキ 著 数学原論 東京図書

これから先は蛇足です。
理論と計算について
大学の数学では、理論が理解できれば十分であり計算は不要だとの声も聞きます。新しい概念を理解するためには、今まで自分が知っていた事柄と照らし合わせて理解するのが着実な方法だと思います。そのためには色々な例題を独力で計算できる力が必要です。この方法によって、新しい概念、結果に到達できるはずだと思います。微分積分学の歴史を覗いてみると、教科書に何気なく書かれている公式が、その当時の最高の研究者による、長時間の研究の成果であることが解ります。